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いまさら翼といわれても(米澤穂信)ネタバレ感想まとめ

【この記事はプロモーションを含みます】

漫画・アニメ『氷菓』シリーズでおなじみの米澤穂信の『いまさら翼といわれても』について、あらすじや話の内容・ネタバレをまとめました。(以下、完全にネタバレを含みます)

 

目次

米澤穂信『いまさら翼といわれても』

基本情報

 

『いまさら翼といわれても』ネタバレ

箱の中の欠落

主人公・折木奉太郎と、その友人・福部里志が夜に語り合う回となっています。

 

折木奉太郎がひとり夕飯を作っているところに、福部里志からの電話が。

夜に外出して落ち合って福部からの話を訊くと、二人が通う神高の生徒会長選挙の投票数が総数よりも40票ほど多いという事件が発生したため奉太郎の推理力を借りたいという内容だったーー。

福部が掛け持ちで選挙管理委員会にも関わっていたとはいえ、福部の個人的な思いから首を突っ込んだ事件で、立て込んだ話と時間的にお腹が空いたからと近くのラーメン屋で2人でラーメンを食べ、後日、折木奉太郎の推理が実際に当たったところで話が終わる。

福部の様子(陰で正義の味方でありたい)と進路の話から、奉太郎は里志に「弁護士」「仕事人」がいいんじゃないかなと発言し、里志が気付かされた思いでまんざらでもない様子が印象的な回でもあった。

トリックのネタ明かしは「委員に紛れ込んで過去全校生徒数が多かった時代に使っていた全く同じ投票箱を持ち出して、箱ごと票を紛れ込ませた」。

鏡には映らない

摩耶花は鏑矢中学校時代の同級生に会い、折木奉太郎が卒業記念制作がきっかけで3年5組全員を敵に回したことを思い出した。

卒業記念に鏡を寄贈する際、絵の得意な同級生がデザインした図柄を卒業生たちが班ごとに手分けして彫刻した木工フレームを充てがうものだったが、奉太郎が一人で班の制作を請け負い、元のデザインとは全く違った直線の鶴を彫り上げた。

この一件でデザインした女子は号泣し、取り巻きは大騒ぎ、同じクラスの同級生たちも奉太郎を非難したが、本人は全てをスルーして高校に進学した。

古典部で奉太郎と接してきた摩耶花は、意味もなくそんなことをする人間じゃないと気づき、事の真相を調べ始めたーー。

 

事の真相は、デザインした子がデザインに隠し文字(自分がいじめていた嫌いな女子を誹謗中傷する言葉)を仕込んでいたことに気づいた奉太郎と里志が、文章を変えるために、デザインを改ざんして手抜きした作品を作ることにしたというもの。

ちょうどいじめられていた女子の名前の部分だったので、一文字変えたらデザインしたいじめっ子の名前にも読めるようになったことで、デザインした子は号泣という、ある意味しっぺ返しだった。

手抜きと気まぐれで、いじめられていた子を救った奉太郎は顔を真赤にしていた。

連峰は晴れているか

千反田える以外の3人は中学校でも同級生。中学の時の英語の先生が授業中に思わず窓に駆け寄ったことがあったという思い出話。

その際に「ヘリコプターが好きだから」と答えたことを覚えていた折木奉太郎。

しかし人間にほぼ興味のない奉太郎が覚えていて、クラスメートや担任にしっかり興味を持っていて情報通だった里志と摩耶花は英語教師がヘリコプター好きとは知らないどころか、他のヘリコプターには全く興味を示していなかったと記憶していた。

さらに思い出話から英語教師が「俺は雷に3回打たれたことがある」と言っていたことも話題になる。

折木は何か嫌な予感とひらめいたことがあり、図書館へ向かい、過去の新聞などをもとに英語教師の名前を調べたりすると…合点のいく内容と推理が組み上がったのだった。

 

事の真相は、英語教師は登山家。遭難があった後に捜索用のヘリコプターが飛び立ったのを見て嬉しくなって窓辺に近寄ったのだった。

奉太郎が嫌な予感と思ったのは「また近々同じことが起こるんじゃないのか?」といったことから。雷に3回も打たれたのは登山という雷に当たりやすい境遇からだった。

 

 

わたしたちの伝説の一冊

摩耶花は漫画雑誌の漫画賞で初めて入選。喜びを噛み締めていると、漫研で同人誌を作る話が持ち上がった。しかし漫研は過去の事件により「読むだけ派」と「描きたい派」に分かれてしまっていて、互いに罵り合う状態になっていた。元部長の引退・退部からよりひどくなっている中、「読むだけ派」に内緒で(裏をかいて)同人誌を発行・実績を作りたいと言い出す子に言いくるめられ、参加を保留にした摩耶花。

漫画を何のために描くのか?を改めて振り返っている間に、同人誌のことがバレ、さらに漫研は最悪な状況に。チクったのは「読みたい派」に属しながら穏健派とみられるクラスメートなのでは…と疑心を抱いていた時に、摩耶花は漫画のネームノートを盗まれてしまい、ますますクラスメートを疑い…。

中学生のころに折木が書いた読書感想文が載った文集を古典部で読んだことをベースに、謎が明らかにされていく。

 

事の真相は、元漫研部長が摩耶花とともに本気で漫画に打ち込むために仕組んだことだった。漫研の派閥争いのために利用されて描くのを辞めさせるため。

今回のことをきっかけに摩耶花は漫研を退部して、元漫研部長とともに自分たちが心を動かされた「伝説の一冊」を今度は自分たちが作ると新たな道を歩み始めた。

 

長い休日

折木奉太郎が千反田えるに、小学校のころの思い出話をする回。

奉太郎の信念「やらなくてもいいことならやらない」といった省エネ人間になったのは、同級生の嘘と先生の様子から「自分は使われている上にバカにされている」と気づいてしまったからだったーーという苦く切ない話。

当時、我慢できずにこのことを姉に相談した際に「長い休日に入ってもいい」といって奉太郎を認めたことが題名に繋がっている。

 

 

いまさら翼といわれても

千反田えるが合唱発表会前に行方不明になった話。

摩耶花が千反田えるが会場に現れないことを心配して折木奉太郎に電話したことで発覚。

会場に駆けつけた奉太郎の推理で千反田の居場所がおおよそ分かり、千反田を見つけることができた。

 

事の真相は、父親に千反田家を継がなくて良いと言われ、これまでの継げという価値観が揺らいだ上に独唱で自由を憧れる歌詞を歌うことができないと拒絶反応が起こったため。

奉太郎は千反田に対してボイコットしたことを「俺は責める気はない」と伝え、「いまさら翼といわれても、困るんです」という千反田の思いを共有したいような思いにかられていた。

 

いまさら翼といわれても感想

小学生・中学生・高校生が触れてくるようなエグい部分が要所要所に盛り込まれた短編集で、それぞれの登場人物たちの性格・人格形成・人間関係ができた背景が大きく見えた書籍と思いました。

個人的には「わたしたちの伝説の一冊」の摩耶花の葛藤から進むべき道を決めた話が良かったです。

 

『いまさら翼といわれても』名言

「本って不思議ね、だれが書いてもいいなんて」

「本って不思議ね、だれが書いてもいいなんて」

どういう文脈での発言だったのかはわからない。車を運転するにも無線機を使うにも免許がいるのに、本を書くことに免許がいらないのは不思議、というぐらいの話だったのかもしれない。しかしその一言は、わたしにとんでもないことを気づかせた。

……そうか。わたしだって、別に漫画を描いてもいいんだ。

 

摩耶花の叔母が取り留めのない雑談で言った一言。

 

「作者の気持ちなど考える必要はありません」

 

花島先生のことでいまでも憶えているのが「作者の気持ちなど考える必要はありません」と言い切ったことだ。

先生はたしかこんなふうに続けた。「どうせろくなことは考えていない。『早く酒飲んで寝たいなあ』と考えながら書いた文章であっても、その文章が意味するところはなんなのかを正確に突き詰めて考えるのが国語です。たとえば松尾芭蕉は『月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也』と書いています。この文章に真摯に向き合った結果として読み解けるのは、芭蕉にとって年とは行くものではなく行き交うもの、つまり行ったり来たりするものだということで、これは芭蕉がタイムトラベラーであったことを示唆しています。そんなわけないと思ったら自分で調べなさい、面白いですよ」……いま考えてみても、変な先生だ。折木の感想文を評価してもおかしくない。

 

ばかだって構わない。ただ、つけ込まれるのだけは嫌だ。

 

ーーお互い様だから手助けしようと思っても、相手もお互い様だと思ってくれるとは限らない。感謝して欲しかった訳じゃない。ただ、ばかにされるとは思っていなかった。ぼくはもう、授業が終わったら学校には残らない。人といれば何かを頼まれることになる。それはきっと、ぼくが何も言わずに引き受けるだけの、ばかだと思われているからなんだ。ばかだって構わない。ただ、つけ込まれるのだけは嫌だ。もちろん、どうしようもないときはなんでもやるよ。文句も言わない。でもそうでなかったら、本当は他の人がやらなきゃいけないことで、ぼくがやらなきゃいけないことじゃなかったら、もうやらない。絶対に。

折木奉太郎が、小学校の担任の先生に「便利に使われていた」と気づいた時、この発見を黙っているのがつらくて、姉に話した時のセリフ。

奉太郎の気持ちに対し、姉は頭に手を置いて、奉太郎の気持ちを止めずに認めた上で次の言葉を言います。

ーーあんたはこれから、長い休日に入るのね。そうするといい。休みなさい。大丈夫、あんたが、休んでいるうちに心の底から変わってしまわなければーー

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